イエティは、言わずと知れたヒマラヤ山脈に住むと言われている未確認動物だけれど、正体は霊長類なのか、それともそれ以外の動物なのかは議論が分かれるところであった。
そんな状況の中、昨年イギリスの科学雑誌Proceedings of the Royal Society Bに、イエティのものとされている毛のDNAには40,000年前のホッキョクグマの化石と共通性があることを示した論文が掲載された。
続けて今年、オンライン誌Zookeysに掲載された論文によると、イエティのDNAを現生するクマおよび絶滅した種のサンプルと照合したところ、イエティは絶滅種ではなく、ヒグマやグリズリーで知られるUrsus arctosとホッキョクグマUrsus maritimusに近いという結果が得られ、ヒマラヤに生息する現生の希少種Ursus arctos isabellinusではないかと推論されている。
今後どういう展開で話が進むかはよくわからないけれど、いずれにせよイエティがクマだったという話はある程度決定なのでしょうな。
なんというか、こういう知っても一文の得にもならないけれど、皆が知りたいと思ったことに対して、科学的に検証されて一流科学雑誌で紹介されるということがなんだか素晴らしいと思ったのでありました。
ちなみに、Ursus arctosとUrsus maritimusは遺伝的にはかなり近い関係にあるらしく、近年は温暖化でホッキョクグマの夏場の生息地が狭くなっているために、グリズリーの生息域と接触し、両者の交雑が起きているそうだ。これはこれで面白い…といったら不謹慎かもしれないが、生態的種分化の証明みたいな感じではないだろうかと思ったりもする。
見た目ではホッキョクグマとグリズリーなんてだいぶ違うように見える。淡水魚で考えると、カワムツとヌマムツのほうがずっと近いように見えるけれど、これら2種は交雑の記録がない。そもそも人にしたって人種によって別種に見えるけれど交雑(?)はする。なんだか形態の差と遺伝的な差のギャップがよくわからない今日この頃である。
蛇足
Zookeysの論文の系統樹を見ると日本のツキノワグマはほかのクマからだいぶ遺伝的に離れている。ほかのクマとはちょっと違う特殊な進化の過程を得ているのかもしれない。
<参考>
Sykes, B. C., Mullis, R. A., Hagenmuller,
C., Melton, T. W., & Sartori, M. (2014). Genetic analysis of hair samples
attributed to yeti, bigfoot and other anomalous primates. Proceedings of the
Royal Society B: Biological Sciences, 281:1789
Gutiérrez EE, Pine RH (2015), No need to
replace an “anomalous” primate (Primates) with an “anomalous” bear (Carnivora,
Ursidae). ZooKeys, 487: 141-154.
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