2015年1月9日金曜日

科学記事雑感:卵で卵をガードする(マメゾウムシの仲間:Mimosestes amicus)

人間、なにがしか行動するからには、行動に対して最大の効果を得たいものです。常に自分の身の周りの状況を正確に把握して、その中で最大の効果を得る、なんてことは誰しも思うけれどなかなかにできないものです。
今回読んだ論文は、そんな理想を現実として実践しているのでは?と思える昆虫のお話でした。

アメリカに生息するマメゾウムシの一種、Mimosestes amicusは、アカシアの木になるマメの”さや”の外側に卵を産み付ける習性があるのですが、この昆虫にはUscana semifumipennisという卵寄生蜂の天敵がいるそうです。卵寄生蜂というのは、他種の卵に自分の卵を産み付けて寄生する蜂で、産み付けられればその卵は蜂の子供の栄養になってしまいます。
さて、このMimosestes amicus、寄生蜂に無抵抗で寄生されているのかといえば、どうもそうでもないようです。なんと、卵を産むと、その上にかぶせるようにもうひとつ別の平たい卵を産んで寄生蜂から卵をガードするのだというではありませんか。
しかし驚くのはまだ早い。
最近の研究[1]によれば、実験的に寄生蜂のいない環境に置いた場合、このような平たい卵を重ねて生むようなことはほとんどせず、普通の卵ばかりを産むのだというのです。平たい卵は普通の卵と比較して半分程度の重量しかなく、正常に発育することはできません。しかし、コストとしては普通の卵と同じ受精卵1個分のコストがかかっています。たとえば本来20個の卵を持っていたとしたら、すべて平たい卵を重ねて産んでしまうと、すべて正常に発育しても10匹の幼虫しか育ちません。1個を無駄にしてしまう形になるのです。
つまり、この昆虫は寄生蜂の存在を感知して、最大限の子孫を残す最適な方法を採用して産卵しているのだと考えられます。

寄生蜂の存在を感知する能力もすごいし、それにも増して卵の形を意のままに変えてガードするって・・・昆虫ってやつは簡単に想像を超えてきますな。

<Reference>
[1] Deas, J. B., & Hunter, M. S. (2012). Mothers modify eggs into shields to protect offspring from parasitism. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 279(1730), 847-853.

http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/279/1730/847.short

2015年1月7日水曜日

科学記事雑感:妊娠は欲求を変える?(ヤマカガシ:Rhabdophis tigrinus)

夫婦の間に子供ができたとき、おなかの中で直接子供と接している妻は子供に栄養を与えることができますが、旦那側はといえばほとんど何もできません。
貢献できているとするならば、せいぜいが苛立つ妻のサンドバッグになり、精神安定に寄与するくらいでありましょうか。
 さて、我が家のかみさんによると、妊娠した女性は味覚が変わったり、食に対する欲求が変わったりするのだそうですが、この現象は人間だけではなく他の動物でもおこるようです。

ヤマカガシ(Rhabdophis tigrinus)というヘビは、通常は水田や草地、河原などに生息し、そこに生息するカエルを食べて生息しています。ところが、最近発表された論文によると[1]、妊娠(といっても産むのは子供ではなく卵ですが)したヤマカガシのメスは、盛んに山地に出かけるようになり、普段の生息場にはあまりいないヒキガエルを選択的に食べるようになるというのです。さらにこの論文では、妊娠時のメスは、妊娠していないメスおよびオスと比較して明らかにヒキガエルのにおいを好むようになるという実験結果が示されています。



それでは、なぜこのような変化が起きるのでしょうか?
ヤマカガシは毒ヘビなのですが、自分で毒を造りだすことができません。彼らが持つ毒は、ヒキガエルのもつ毒から摂取したものなのだそうです。それでは、卵から出たばかりの子供のヘビはどうかというと、ちゃんと毒をもっているようです。ただし、これは親が妊娠中にヒキガエルを食べていた場合に限った話です。親がヒキガエルを食べていない場合は、毒を持たない子供が生まれるとのことが知られています。毒のない子供も、毒を与えればすぐにストックができるようなのですが、生まれたばかりの子供ではヒキガエルを食べることはできません。
つまり、妊娠中のヤマカガシによるヒキガエルの積極的な摂取は、自力でヒキガエルの毒を摂取できるようになるまでの武器として、子供に毒を与えるための行動ではないかといわれています。

人間はともかく、ヤマカガシのメスには管理栄養士がいるわけでもなく、教えてくれる何かがあるわけでもないでしょう。きっと、そうしなければならない強い欲求が生じるのだと思われます。
振り返って人間の場合、欲求に対して素直に動きすぎると過剰に太ってしまったり、ひいては妊娠中毒症のようにあまりいい結果に結びつかないようです。これは、ヤマカガシと違ってわれわれの周辺の環境が、欲求が満たされやすい状況にあるためでしょう。ヤマカガシの場合は、欲求にしたがって行動、探索してこれを満たす。一方の我々は、過剰な達成を避けるために欲求をセーブする。
うーむ、生物としての達成感はヤマカガシのほうが高そうだけど・・・まぁ、欲求が満たせないときのイライラ感は一緒なのでしょうかね。

<Reference>
[1] Kojima, Y., & Mori, A. (2015). Active foraging for toxic prey during gestation in a snake with maternal provisioning of sequestered chemical defences. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 282(1798), 20142137.

http://classic.rspb.royalsocietypublishing.org/content/282/1798/20142137.short

科学記事雑感:使用法の進化(デンキウナギ:Electrophorus electricus)

魚を調査する道具に、電気ショッカーという漁具があります。
文字通り水中に電流を流す道具で、感電して動けなくなった魚を片っ端から捕獲できる極めて効率の良い漁具です。

しかし、この道具にしてもけっして万能なわけではありません。
たとえば、大きな川や湖など、広い水面で使用すると魚は当然電気の届かない範囲に逃げてしまいます。また、水中を泳ぎまわる魚は、感電するとおなかを上にして水中を漂うのでわかりやすいのですが、石の下や泥の中に潜んでいる魚はそううまくはいきません。
こうした魚は、もともとが水に浮きにくい体の構造をしており、感電しても見つけにくい場所で動かなくなってしまいます。場合によっては、石の間をコロコロと転がりながら流れて行ってしまったりもしてしまいます。要するに、魚を感電させることができるこの強力な道具にしても、うまく使わなければ逆に非効率になってしまうこともあるのであります。

さて、アマゾン川に生息する有名なデンキウナギ(Electrophorus electricus)も、電気ショッカーと同じように小魚を感電させて捕えます。
この魚の発する電気は600Vもの電圧、場合によっては馬を感電死させるほどのものですです。
しかし、高電圧は極めて短時間しか持続しません。そのため、餌をとる時には小魚に接近し、この高電圧を1秒間の間に400回ほどの頻度で連続して発します。これにより、小魚を感電させ、身動きができない状態にしてから捕食するわけです。




そんなデンキウナギでありますが、最近、発する電気は単に小魚を動けなくするというだけではなく、捕食に際してより効果的に使われていることが明らかになりました。
昨年発表された論文によると[1]、このウナギ、小魚の動きを止める連続の高電圧を発する前に、2~3回程度の小数回の電気を発するそうです。この電気は、小魚の筋肉につながる神経に働きかけて"けいれん"を起こし、さらには、このけいれんが起こす水中の振動を、小魚の居場所を知る情報として使っているというのです。
なお、論文内に紹介されている実験によると、小魚が見える場所にいてもけいれんが起きない場合はアタックせず、逆に電気と無関係にけいれんによる振動を起こした場合は小魚へアタックするとのことでした。

考えてみれば、普通の川であれば水草や石をはじめ、水中にはいろいろなものがあって、いつでも他の魚が見える状態にあるわけではありません。加えて、アマゾン川であれば水も濁っていて、視界も悪そうです。相手の居場所が視覚でわからないのであれば、”遠隔操作で相手を動かして場所をつかむ”というのはきわめて合理的な方法なんでしょうね。強い力を持っている生き物に対しては、どうしても力の強大さに目が行きがちですが、力の使い方も相応に進化しているものだといえそうです。

Reference
[1] Catania, K. (2014). The shocking predatory strike of the electric eel. Science, 346(6214), 1231-1234.
http://www.sciencemag.org/content/346/6214/1231.short