2015年1月7日水曜日

科学記事雑感:使用法の進化(デンキウナギ:Electrophorus electricus)

魚を調査する道具に、電気ショッカーという漁具があります。
文字通り水中に電流を流す道具で、感電して動けなくなった魚を片っ端から捕獲できる極めて効率の良い漁具です。

しかし、この道具にしてもけっして万能なわけではありません。
たとえば、大きな川や湖など、広い水面で使用すると魚は当然電気の届かない範囲に逃げてしまいます。また、水中を泳ぎまわる魚は、感電するとおなかを上にして水中を漂うのでわかりやすいのですが、石の下や泥の中に潜んでいる魚はそううまくはいきません。
こうした魚は、もともとが水に浮きにくい体の構造をしており、感電しても見つけにくい場所で動かなくなってしまいます。場合によっては、石の間をコロコロと転がりながら流れて行ってしまったりもしてしまいます。要するに、魚を感電させることができるこの強力な道具にしても、うまく使わなければ逆に非効率になってしまうこともあるのであります。

さて、アマゾン川に生息する有名なデンキウナギ(Electrophorus electricus)も、電気ショッカーと同じように小魚を感電させて捕えます。
この魚の発する電気は600Vもの電圧、場合によっては馬を感電死させるほどのものですです。
しかし、高電圧は極めて短時間しか持続しません。そのため、餌をとる時には小魚に接近し、この高電圧を1秒間の間に400回ほどの頻度で連続して発します。これにより、小魚を感電させ、身動きができない状態にしてから捕食するわけです。




そんなデンキウナギでありますが、最近、発する電気は単に小魚を動けなくするというだけではなく、捕食に際してより効果的に使われていることが明らかになりました。
昨年発表された論文によると[1]、このウナギ、小魚の動きを止める連続の高電圧を発する前に、2~3回程度の小数回の電気を発するそうです。この電気は、小魚の筋肉につながる神経に働きかけて"けいれん"を起こし、さらには、このけいれんが起こす水中の振動を、小魚の居場所を知る情報として使っているというのです。
なお、論文内に紹介されている実験によると、小魚が見える場所にいてもけいれんが起きない場合はアタックせず、逆に電気と無関係にけいれんによる振動を起こした場合は小魚へアタックするとのことでした。

考えてみれば、普通の川であれば水草や石をはじめ、水中にはいろいろなものがあって、いつでも他の魚が見える状態にあるわけではありません。加えて、アマゾン川であれば水も濁っていて、視界も悪そうです。相手の居場所が視覚でわからないのであれば、”遠隔操作で相手を動かして場所をつかむ”というのはきわめて合理的な方法なんでしょうね。強い力を持っている生き物に対しては、どうしても力の強大さに目が行きがちですが、力の使い方も相応に進化しているものだといえそうです。

Reference
[1] Catania, K. (2014). The shocking predatory strike of the electric eel. Science, 346(6214), 1231-1234.
http://www.sciencemag.org/content/346/6214/1231.short

0 件のコメント:

コメントを投稿