2020年6月2日火曜日

全か無か…なのか?

日曜日、自宅2階の息子の部屋で、息子のDSを拝借し、息子のベッドに横たわりながらテトリスにいそしんでいると、階下からかみさんと子供二人の会話がもれ聞こえてきた。

かみさん「・・・でさー、・・・だったのよー」
娘「えぇっ!それって相当ひどくない?」
息子「それ…、かなりのクズだよね…」
かみさん「そう、お父さんさー・・・」

会話の内容はよくわからない。
が、「相当ひどい奴=かなりのクズ=私」、という等式が、明確に頭の中にスクロールインしてきた。
どうやら私の過去の愚行について話しているらしい。
当然、どういった行動について批判されているのか気になるところである。
しかし、40数年も生きていれば、直ちにそれを確認してはいけないことはわかっている。理由を聞いて、ただただ傷をほじくりかえすという事態に陥ったことがあるからだ。
人は歴史から学ばねばならない。
同じ悲しみは繰り返してはいけないのだ。
気持ちを断ち切るように、私は画面上のブロックの穴にT-Spinを冷静に決めた。

さて、そんなことはさておき、先週、イトヨという魚について考える機会があった。
イトヨとはトゲウオ目トゲウオ科に属する淡水魚。ノーベル医学生理学賞を受賞したティンバーゲンの「鍵刺激」の実験で有名な魚である。
水中でその場にとどまるようにホバリングしたり、せっせと水草の破片を運んで巣を作ったりするので見ていて楽しい魚だ。
イトヨには一生を淡水で生息するもののほかに、サケのように海に降り、産卵のために川に遡るものもいる。両者は種レベルで分化しており、交雑してもその後の世代は続かない。

降海型のイトヨ(ニホンイトヨ) 20年位前の写真。写真がこれしかない…デジカメ無かったのよね…
最近話題に上がったのは、後者のほう、つまり海に行って帰ってくる方のイトヨ(ニホンイトヨ)である。この魚、日本だと北海道〜九州北部までの日本海側と、北海道から茨城県までの太平洋側の河川が分布域である。しかし、近年、日本海側では確認例が著しく少なくなっており、九州や本州日本海側では絶滅に近いいほど壊滅的だ。
もともと少ないものがいなくなるならばよくある話かもしれないが、ニホンイトヨの場合、数十年前までは本州日本海側の各地で普通に食べられていたくらい数が多かったそうな。新潟県では、春の始まりとともに大量に遡上するので、春告げ魚と呼ばれ、佃煮等で食されていたようだ。
新潟県内で激減、というかほぼ絶滅状態の今、地物のイトヨを食す機会はない。が、佃煮文化だけはかろうじて残っているらしく、北海道から取り寄せたイトヨで佃煮が細々と作られているとのこと。いつかどこかで出会いたいものである。

さてさて、淡水魚の激減はさまざまな種について言われていることであるが、生息している河川では大量にいたいわゆる「普通種」が、ここまで広範囲で劇的に姿を消した例は珍しいのではなかろうか。なにせ、日本海側の河川ではいっせいに姿を消してしまったのだ。秋田県レッドデータブックには激減の様が記述されており、八郎潟での漁獲量は、1991年の498kgをピークに、以降、39kg、21kg、35kg、3kgと漸減し、2003年以降の漁獲量は全く認められていなくなったという。
減少要因は、大体どこのレッドデータブックを見ても、堰堤による河川への遡上阻害、産卵環境との連続性の低下、産卵環境の消失、などが上げられている。もちろん、これらはどれも減少の原因であることは間違いないだろう。
しかし、私の知る範囲では、かつてイトヨがいたとされる川の産卵適地が現時点でゼロかといわれればそうでもないし、すべての川で遡上不能な河口堰があるわけでもない。少しくらいは残っていたってよさそうなものだ。けれども、やっぱりイトヨは見当たらない。

こうなると、なんだか原因は川だけでもないような気もしてくる。
亜寒帯を分布の中心とする魚だけに、海水温の上昇が問題なのだろうか。
はたまた、産卵環境の減少によって、個体群が縮小し、結果としてアリー効果が薄くなったために、急速に数を減らしたのか…。
ウウム、なんだかこれはアリー効果だけに、アリそうな気がする。
淡水型のイトヨはそこまで群れていない印象だが、降海型のイトヨはかなり群れる性質が強いと感じる。石狩川の河口近くの旧河道で自己調査をしていた時、春先になると、仕掛けた網かごの中に大量のイトヨが入っていた。ジャミジャミという金属音は今でも記憶に鮮明だ。海域でもきっとそのように暮らしているに違いない。実際、「知床の魚類」では、海域をサバのように群遊するイトヨの写真が掲載されている。
大量に群れないと大型捕食者の多い海の中での生残率が低下するというのは、可能性として十分あるのではなかろうか。
知床の魚類
これと似るのかどうなのかわからないが、ふと、北海道の海で、かつて年間100万トン以上採れていたニシンが、漁獲量ほぼゼロになるまでいなくなったことが頭をよぎる。喜ばしいことに、ここ数年は増えだしたようで、今年は精子で海が白く染まる現象「群来(くき)」がかなり見られたようだ。ぱったりといなくなり、しばらくして急速に復活した形だ。イトヨとは事情が違うかもしれないが、同じようにイトヨが復活する日が来ないものだろうか。
そんなことを思いながら、再びブロックの隙間に長い棒を決めた。

<参考文献>
・秋田県. (2016). 秋田県の絶滅のおそれのある野生生物 2016 秋田県版レッドデータブック (動物編).
・斜里町立知床博物館編. (2003). 知床の魚類. 株式会社 北海道新聞社