2015年1月14日水曜日

オープンな流れ?

今日HPを巡回していたら、雑誌Ecology and Evolutionがオープンアクセスになっていた。
NatureがReadCubeで見られるようになったりして最近はオープン化の流れがあるのかな?
そんなにたくさん読めないけれど、選択肢が増えるのは良いですね。

2015年1月13日火曜日

科学記事雑感:寄生関係の逆転(ヨーロッパタナゴRhodeus amursとドブガイ属の二枚貝Anodonta sp.)

私のお小遣いが今の額に決定されるまで、かみさんとの間には語るも涙なやりとりがありました。同じように、生物同士の今の間柄というものも、進化の過程でずいぶんな攻防があったのでしょう、今回はそんなことを感じさせるお互いを利用しあう2種類の生き物のお話です。

このブログでもしばしば登場している魚、タナゴ類は5~10cm程度の小さな淡水魚。世界的にみると、東アジアを中心に50種類くらいが生息しているそうです。日本にも、このうちの20種弱と、かなり多くの種類が生息しています。
さて、このタナゴという魚、卵を二枚貝の中に産みつけるという変わった生態を持ちます。この生態、貝にしてみれば迷惑な行為のようで、卵を産みこまれると何とか吐き出そうとするようです。しかし、そこはタナゴ類のほうが一枚上手。卵の構造が貝の中から吐き出されにくい形になっており、吐き出されるのを防いでいます。

一方、二枚貝も寄生されているばかりではありません。こちらはこちらで、雌の貝が幼生を放出して魚に寄生をさせるという生態を持ちます。さて、貝にしてみれば、タナゴ類は産卵するためにわざわざ近づいてくるわけですから、幼生を寄生させるのには好都合な相手に見えます。ところが、ここもタナゴが一枚上手。タナゴはどうやら二枚貝の幼生に対して免疫機構のようなものを持つようで、タナゴについた幼生は正常に発育せず、稚貝になる前に消えてしまうようなのです。つまり、現状、タナゴ類と二枚貝の関係はタナゴ類の圧勝という状態にあるといえるかと思います。

ところが、この関係、すべてのタナゴと貝について成り立つわけではないようです。近年の研究によると、タナゴ類の一種、ヨーロッパタナゴ(Rhodeus amurs)は、同じ生息地にもともと住んでいる在来種の貝(ドブガイ属の一種Anodonta anatina)との間ではこの関係が成り立ちますが、東アジアから持ち込まれた外来種(同じくドブガイ属の一種Anodonta woodiana)との間ではタナゴ側は貝を産卵場として利用せず(できない?)、一方で貝の幼生はタナゴに寄生して発育がすすむ、つまり寄生関係が逆転するのだそうです[1]。

ヨーロッパタナゴ(Rhodeus amurs)の産卵行動
貝はAnodonta cygneaというドブガイ属の貝のようです。ここでは産卵に失敗して貝から卵が吐き出されます。
紹介した論文ではAnodonta woodianaを産卵場として選ばないという結果でしたが、産卵はするが全て吐き出されると言う報告もあるようです。

なお、Anodonta woodianaは本種の幼生が寄生した魚が移植されたことにより、ヨーロッパに侵入したと考えられていますが、天然分布地の東アジアでは多くのタナゴ類に産卵場として利用されています。対するヨーロッパタナゴ、こちらは世界的なタナゴの分布域からすると端っこに分布する種で、ヨーロッパに分布するタナゴ類は本種一種。こうした背景を考えると、Anodonta woodianaのほうがタナゴ-二枚貝間の種間関係に”揉まれて”いたからなのか?とも思えますが、いずれにせよ歴史的に接点のなかった二種の間では通常と違う種間関係となる場合があるのでしょう。外来種の存在が、皮肉にも在来種同士の種間関係が長い歴史をかけて築かれたものであるということを示した事例であるとも言えるかも知れません。

<Reference>
[1] Reichard, M., Vrtílek, M., Douda, K., & Smith, C. (2012). An invasive species reverses the roles in a host–parasite relationship between bitterling fish and unionid mussels. Biology letters, 8(4), 601-604.


蛇足:こんな事例を見てしまうと、ヨーロッパやロシア、北米を分布の中心とするカワシンジュガイ類と、東アジアを分布の中心とするタナゴという組み合わせも、お互いの分布域の端っこである日本で出会うわけで、何か特殊な関係がありそうに妄想してしまいます・・・