2015年1月7日水曜日

科学記事雑感:妊娠は欲求を変える?(ヤマカガシ:Rhabdophis tigrinus)

夫婦の間に子供ができたとき、おなかの中で直接子供と接している妻は子供に栄養を与えることができますが、旦那側はといえばほとんど何もできません。
貢献できているとするならば、せいぜいが苛立つ妻のサンドバッグになり、精神安定に寄与するくらいでありましょうか。
 さて、我が家のかみさんによると、妊娠した女性は味覚が変わったり、食に対する欲求が変わったりするのだそうですが、この現象は人間だけではなく他の動物でもおこるようです。

ヤマカガシ(Rhabdophis tigrinus)というヘビは、通常は水田や草地、河原などに生息し、そこに生息するカエルを食べて生息しています。ところが、最近発表された論文によると[1]、妊娠(といっても産むのは子供ではなく卵ですが)したヤマカガシのメスは、盛んに山地に出かけるようになり、普段の生息場にはあまりいないヒキガエルを選択的に食べるようになるというのです。さらにこの論文では、妊娠時のメスは、妊娠していないメスおよびオスと比較して明らかにヒキガエルのにおいを好むようになるという実験結果が示されています。



それでは、なぜこのような変化が起きるのでしょうか?
ヤマカガシは毒ヘビなのですが、自分で毒を造りだすことができません。彼らが持つ毒は、ヒキガエルのもつ毒から摂取したものなのだそうです。それでは、卵から出たばかりの子供のヘビはどうかというと、ちゃんと毒をもっているようです。ただし、これは親が妊娠中にヒキガエルを食べていた場合に限った話です。親がヒキガエルを食べていない場合は、毒を持たない子供が生まれるとのことが知られています。毒のない子供も、毒を与えればすぐにストックができるようなのですが、生まれたばかりの子供ではヒキガエルを食べることはできません。
つまり、妊娠中のヤマカガシによるヒキガエルの積極的な摂取は、自力でヒキガエルの毒を摂取できるようになるまでの武器として、子供に毒を与えるための行動ではないかといわれています。

人間はともかく、ヤマカガシのメスには管理栄養士がいるわけでもなく、教えてくれる何かがあるわけでもないでしょう。きっと、そうしなければならない強い欲求が生じるのだと思われます。
振り返って人間の場合、欲求に対して素直に動きすぎると過剰に太ってしまったり、ひいては妊娠中毒症のようにあまりいい結果に結びつかないようです。これは、ヤマカガシと違ってわれわれの周辺の環境が、欲求が満たされやすい状況にあるためでしょう。ヤマカガシの場合は、欲求にしたがって行動、探索してこれを満たす。一方の我々は、過剰な達成を避けるために欲求をセーブする。
うーむ、生物としての達成感はヤマカガシのほうが高そうだけど・・・まぁ、欲求が満たせないときのイライラ感は一緒なのでしょうかね。

<Reference>
[1] Kojima, Y., & Mori, A. (2015). Active foraging for toxic prey during gestation in a snake with maternal provisioning of sequestered chemical defences. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 282(1798), 20142137.

http://classic.rspb.royalsocietypublishing.org/content/282/1798/20142137.short

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